1.フォーカシングとは

フォーカシングは、アメリカの哲学者ユージン・ジェンドリンが創始した心理療法です。

ジェンドリンは、人が体験を象徴化する過程について研究していく中で、ロジャーズの来談者中心療法にそのヒントを見出し、ロジャーズの下でカウンセリングを学びました。

 

のちに、ロジャーズの共同研究者となったジェンドリンは、カウンセリングで効果がある人とない人の違いに着目し、効果のあったクライエントは、面接の間、言葉にならないような漠然とした内的感覚に触れながら話していたということを発見しました。

 

ここで、クライエントが内的にしていることを誰もができるようにしようと、ジェンドリンが体系化したのがフォーカシングです。

人は、自分のいる状況や気がかりな事柄に対して様々な「からだの感じ」を感じています。このからだの感じとは、単に筋肉や内臓の活動ではなく、思考や感情とも違います。

 

その人が体験している全体について、まだ言葉にならないけれど確かに感じられるある「感じ」のことで、これをフェルトセンスと呼びます。

そして、このからだの感じにじっと焦点を合わせる(フォーカスする)うちに、やがてその感じにぴったりとする言葉やイメージが見つかると、からだが納得し、新たな感じが生まれてきます。これをフェルトシフトと呼びます。

 

このような過程を繰り返して、からだの底から「ああ、そうだ」と納得したとき、私たちは行き詰った状態から解放され、生の方向に向かうことができるのです。

 

 

 

 

2.フォーカシングの実際

 

フォーカシングでは、自分自身にフォーカスする人のことをフォーカサー、フォーカサーの言葉を聴きながら、フォーカサーがより深く自分を感じられるように援助する人のことをリスナーと呼びます。   

 

◆フォーカサーの行うこと

 

フェルトセンスを感じるためには、目を閉じて静かに落ち着いて、自分のからだの内側にしばらくじっと注意を向けてみることが必要です。はじめは何も感じられないかもしれませんが、焦らずにじっと感じ続けていると、たしかに感じられる何かがあることに気づくでしょう。

それは体の痛みとして感じられたり、体の中で何かが動いているように感じたりして、とても奇妙に感じられるかもしれません。フェルトセンスには、普段私たちが馴染んでいる感情や思考とは違う、もっとずっと多くのものが含まれているのです。

 

 フェルトセンスが感じられたら、それがどんな感じなのか言葉にして言ってみましょう。

なかなかぴったりする言葉が見つからないかもしれません。それでもじっとその感じにとどまって感じながら、言葉にしてみましょう。リスナーがそれを伝え返してくれたら、自分が感じているフェルトセンスと照合してみましょう。

「ああ、そうだ」と思うかもしれないし、「そうじゃなくて、もっとこんな感じ」と思うかもしれません。

そこでぴったりとする言葉が見つかると、からだが納得し、新たな感じが生まれてくるのがわかるはずです。

 

自分自身の奥深くを感じるために、特に以下のことを大切にしましょう。

 

(1)感じる

 

何よりも大切なことは「考える」のではなく、「感じる」ということです。

頭であれこれ考えたり、理屈をつけたりせずに、ただただ素朴に自分のからだを感じ続けましょう。

 

(2)評価しない

 

フェルトセンスには、「こういうものが出てきたらいい/悪い」ということは一切ありません。

フェルトセンスの多くは、常識ではとても考えられないようなものだったり、それまでの流れとはつじつまの合わないものだったりします。それでも、出てきたものをそのまま優しく受け取って、感じましょう。

 

(3)留まる     

 

フェルトセンスは、初めはとても微かな感じだったり、言葉にできないようなはっきりしない感じだったりしますが、そこにじっと留まって大切に感じましょう。

また、時にはとても恐ろしい感じがしたり、感じたくないものかもしれませんが、留まってしっかり感じることで、からだは必ず生の方向に向かって変化します。無理のない範囲で、できるだけ怖がらずに留まりましょう。

 

(4)遠慮しない     

 

なかなかフェルトセンスを感じられなかったり、変化が起こらないと、リスナーに申し訳ないと思ってしまう人がいます。

ですが、焦って無理に感じようとしたり、変化を起こそうとすることは、全く無意味であるばかりか、自然なからだのはたらきを阻害してしまいます。リスナーに遠慮しないで自分のペースで感じましょう。

 

 

◆リスナーの行うこと     

 

フォーカサーが安心して自分のペースでフォーカシングできるように、フォーカサーのプロセスを大事にして傾聴し、そのまま伝え返して受容・共感していくことが基本です。フォーカサーの言葉を自分自身のからだで受け止め、そこで起こってくる感じを大切にしながら聴きましょう。

質問するときは、情報収集のために聴くのではなく、その質問によってフォーカサーがよりしっかりとフェルトセンスを感じられるように聴きましょう。

シェアをするときは、自分自身のフェルトセンスを大事にしながら、フォーカサーが体験したことを意味として受け取れるように援助しましょう。

 

人は誰でもからだの奥深くに生の方向に向かう力を持っています。リスナーは、フォーカサー自身の生の方向に向かう力を信じて共にいましょう。

 

 

「素朴に、素直に、そのまま」を大切に!